ベトナム戦争の敗者は、確かに、アメリカでした。ベトナム後のアメリカをテーマとしたゼミ生がいました。
ベトナムでの敗戦はアメリカ社会に大きな影響を及ぼしました。ゼミ生は帰還兵に焦点を当てて論文を書きました。このゼミ生は高校時代に1年間アメリカに留学した経験があり、その時のホストファミリーのお父さんがベトナムからの帰還兵で、それに加えて、お父さんの友人の帰還兵からも話を聞き取りました。
ベトナム戦争後のアメリカ社会はベトナムでの戦争を間違った戦争と捉え直し、また、それに参戦していた兵士を非道徳な存在として排斥しました。ベトナム戦争はテレビカメラが戦場に入った最初の戦争で、アメリカ国民はその戦場の実態に強い拒絶反応を示しました。
その端的な表れが反戦運動でした。
こうした雰囲気は戦争から帰還した兵士たちへの反発と排斥という形で現れました。映画「ランボー」で描かれたのはこうしたアメリカの実態でした。ホストファミリーのお父さんは空軍に所属してベトナムのジャングルに枯葉剤などを撒いたりしていたことで、帰還後、様々な嫌がらせを職場や地域社会で受けたといいます。果ては、職を失い、再就職もままならず、田舎に引っ越し牧場を開いたということです。
また、その友人は海兵隊の兵士で、帰国後PTSDになり、これもまた職を失ったものの、戦場で最前線にいたことが同情を呼び、周囲の援助で農園を経営するようになったということです。PTSDの克服には非常に長い年月を要したといいます。
アメリカは、歴史上初めての敗戦をなかなか受け入れることができなかったせいか、この戦争からの帰還兵に極めて冷たく当たりました。それ以上にむしろ、彼らを自分たちの社会から排斥する雰囲気もあったのです。敗戦の影響は社会全体に渡ったことは間違いありませんが、最大のしわ寄せは個々の帰還兵に向かいました。
中国残留孤児の場合もそうでしたが、戦争と敗戦は末端の個人の人生と幸福に大きな負の影響を与えます。このゼミ生は、自分の知り合いとはいえ、具体的な個人にアプローチすることでテーマを自分のものとすることができました。
この他にも、様々な地域・国の戦後がゼミ生によって取り上げられました。4次にわたる中東戦争とその敗者エジプト、アヘン戦争後の中国、イギリスの支配を受けていたアイルランドなどです。
※このブログは毎月15日、30日に更新されます。
柴田純志・著『ウェストファリアは終わらない』
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