2019年8月15日木曜日

第115回【紛争のルーツ――植民地主義⑦】

2014年度の総括の講義を続けます。

ところで、冷戦が終了して四半世紀を経た現在、国際社会が直面している最大の問題のひとつが「破綻国家」をどうするかという問題であると思います。植民地から独立を果たした地域が自国だけではどうにもまともな統治を確立できないという問題でもあるのですが、こうした問題は、冷戦時代には、冷凍保存されていたようにあまり表には出てこなかったのです。ところが、冷戦の終了と同時にほぼ解凍されて、今では多くの地域で、あたかも歴史が逆転したかのような様相を見せているのです。こうした「破綻国家」にとってまず第1に必要なものは強い国家そのもので、それの確立を自身ではできないというのが問題なわけです。そこからは極めて非合理的な、つまり、秩序ある社会に生きる我々にはほとんど理解できないような暴力や紛争が噴出しており、まさに人道的な危機が立ち現われています。

現在のこうした「破綻国家」に対する処方箋としては、国連を始めとする、ということは、つまり、先進国や先進国をベースとするNGOなどの外部アクターによる「平和構築活動」が中心となっています。しかしながら、ちょっと考えてみれば分かることですが、この「平和構築活動」とは、19世紀の、人道主義を語る「植民地主義」と極めて似た構造を持つ活動なのではないかと私には思えます。

冷戦後の世界のもう一つの脅威が「新しい戦争」と呼ばれる紛争です。具体的には、破綻国家における内戦やそこから生まれるテロを指すと考えればよいわけですが、これは「新しい野蛮」とも言い換えられるものです。「野蛮」ではあるけれど、そこで使用される武器などは近代的なもので、昔の野蛮とは相当に様相が異なっています。「新しい戦争」と呼ばれるこの戦争は、主権国家同士の従来の戦争とは違って、国家破綻の過程やその結果から生み出される内戦やそうした権力の空白におけるテロ集団の誕生と成長、そして、そのテロが海外で行われる可能性のすべてを指すものです。内戦による難民の流出や国内避難民の問題、そして溢れ出すテロの脅威は、すべてこうした地域に秩序を生み出すべき権力が確立できないことから発生しているわけで、「破綻国家」の問題と根は一緒ということができます。

※このブログは毎月15日、30日に更新されます。

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