2017年7月15日土曜日

第66回【彼らはなぜ核兵器を持つか⑥】

核兵器は、初めて製造をされてから、実験では何千回も使用されているわけですが、実戦では、広島と長崎に使用されたのみです。その用途は、「抑止」のみにあると言われたりすることもあります。他の兵器とは明らかに異なった性質の兵器です。

そもそも、抑止とは理解の難しい概念です。
核兵器に限らず兵器には4通りの使い道があります。
1に、それを使用する方法。第2に、それを実際には使わずに済ます方法です。
さらに、使用する方法に2つの用途があります。その第1が、「攻撃」。そして、第2が、「防御」となります。攻撃と防御は明確に違うようにも思いますが、実は、何が攻撃で何が防御かを区別することは簡単なことではありません。野球やアメリカン・フットボールでは攻撃側と守備側がはっきりと分かれていますが、サッカーやラグビーでは必ずしもはっきりとしません。フォワードがバックスの横パスを奪おうとすることは攻撃でしょうか、それとも、守備でしょうか。軍事において、放っておくと自国を攻撃してくるに違いない敵国の基地を予め攻撃することは攻撃でしょうか、それとも、防御でしょうか。このようにして、古来すべての戦争は「自衛」を理由として開始されます。そして、それはまんざら嘘ではないのです。

使用しない方法にも2つのあり方があります。その第1が「強制」です。武力にものを言わせて相手国を自国の望むように動かすのが強制です。こちらが言わなければけっして相手がしないようなことを相手にさせるのが強制です。概念理解のためには何となく分かるではいけないので、口説く説明しますが、強制の特徴は相手に「to do something」を強いることと言えます。これに対して、使用しない方法の第2が「抑止」です。抑止とは、相手に何事かをしないことを強いるということになります。すなわち、「to do nothing」を強いるのが抑止というわけです。動いていない相手に「そこを動くな」と言うのが抑止なわけですが、難しいのは、動いていない相手に「動くな」と言うわけですから、相手が引き続き動かないのがそう言われたから動かないのか、言われたことと関係なく最初から動くつもりがないから動かないのかが証明できないということです。軍事力の使い道でもっとも検証困難なのが抑止であるということがわかると思います。抑止が効いていたかどうかが証明されるのはその抑止が破られる瞬間ということになるのです。

このように、軍事力には、攻撃、防御、強制、抑止の4つの使い道があるのです。

※このブログは毎月15日、30日に更新されます。


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