2016年9月15日木曜日

第46回【1989 時代は角を曲がるか①】

2010年度の柴田ゼミは、様々な点で曲がり角を迎えました。

まず第1に、前年度に英語のテキストを使ったためにゼミ生が激減、その影響から、2010年度は4年生のゼミ生がいなくなり、新たに加わった6人の3年生のみとなったのでした。ゼミをゼロからスタートさせるかのような感じでした。ただ、3年生にとってこれは幸運であったということが言えるかもしれません。例年、3年生は4年生に遠慮するからか、私との距離をなかなか近づけられない印象があるのですが、この年は4年生がいないことで、私との距離が、3年生としては、例年になく近いものとなった実感がありました。

2に、ゼミのタイトルは今も昔も「国際システムの変容」というものなのですが、この問題意識にひとつの答えを出すことが出来ました。2012年には『ウェストファリアは終わらない』を出版したわけですが、2006年度からのゼミでの考察によって、「現在の国際システムが過渡期にあって、変容しつつあるか否か」という当初の疑問には、自分なりの答えを出すことができました。その成果が『ウェストファリアは終わらない』だったのですが、2006年にゼミを始める前にはほとんど考えもしなかった結論に達したのでした。この年でこの関心には区切りをつけ、次年度からはまったく新しいテーマとなることを予感しながら1年を過ごしました。
大学の講義やゼミ、学生とのかかわりは、生き物あるいは生ものだなとつくづく感じる時があります。同じことの繰り返しということはないのです。

2010年度のテーマは「1989 時代は角を曲がるか」というものでした。

1989年は、年が明けてすぐに昭和天皇が崩御し、6月の同じ日に、ポーランドでは戦後初の自由選挙が行われたのに対して、中国では天安門事件が起き、119日にはベルリンの壁が崩壊し、12月末までには東ヨーロッパのすべての国が恐る恐る自由化を達成し、なんとそれをゴルバチョフ率いるソ連が容認し、年の最後には、ルーマニアの独裁者チャウシェスクが処刑されることで幕を閉じた1年でした。戦後長く続いた冷戦が終わりを告げた年とされています。

「時代が変わった」とか「世界はその時曲がり角を曲がったのだ」とか言われることがありますが、1989年はそのような年であったでしょうか。あるいは、そういう年としては2001年の方が相応しいでしょうか。20019月11日には、アルカイダによるニューヨークと国防総省への航空機によるテロがありました。それによって世界は変わったでしょうか。

1989年を検証するために、学生たちには新聞の縮刷版を使って1989年の新聞を克明に読ませました。ゼミの2回を使って1ヶ月を扱うこととしました。420日と27日に「1月」をテーマとしました。ゼミ生は、1月の新聞を読んで、もっとも自分が注目すべきだという事件、事実を取り上げて、背景などを調べ、ゼミで報告をし、それらを全員で討論しました。ちなみに、私も学生に混じって同じ報告をしました。
ゼミ生が注目する事件、事実には、予想もしないものもありました。たとえば、1月には、「この月に、任天堂のゲームボーイが登場」という報告をしたゼミ生がいましたが、確かに、こういうものが若者の生活を根底から変えるのかもしれません。

2010年度は、学生に課題図書として多くの本を読ませました。学習院では、ひとつのゼミに1年間で20万円の予算がつくのですが、私のゼミでは、10万円を合宿の費用の補助に、10万円を課題図書の購入に当てることにしています。ゼミ生の人数が少なくなればそれだけ多くの本が買えるようになるわけで、2010年度のゼミ生は幸運であったと言えます。私は、せっかくなので、ひとつの一貫したテーマを設けて本を選びました。7冊の本を与え、レポートをそれぞれについて提出させました。意外な反応でしたが、普段本を読まない学生たちが、レポートがあっても構わないからもっと本を与えて欲しいと言ってきたりしました。この読書の課題についても、後ほど報告します。

次回からは、私が学生に出した課題、発したメッセージや学生たちが取り上げた事件、事実などをご紹介していきたいと思います。

※このブログは毎月15日、30日に更新されます。


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