2019年1月15日火曜日

第102回【ひとを殺す道具④】

2013年度は「人を殺す道具」をテーマとして勉強をしました。前回、ゼミ生たちが取り上げたテーマの一覧をお見せしました。このうちで、もっとも従来型でない兵器を取り上げた論文について今回はご紹介したいと思います。

2013年度と言いますと、ほんの5~6年前に過ぎないのですが、現代のテクノロジーの進化にとって「5年とは永遠に等しい」そうで、この間に一気に普通の兵器となったものもあります。その代表が無人航空機であると思います。ドローンと呼ばれることもあります。

映画「アイ・イン・ザ・スカイ」で描かれて有名ですが、現代においては、ドローンは様々な軍事的作戦遂行に欠かせないものとなっています。

無人飛行機と言えば、一昔前はせいぜい農薬の散布などに使用されるものとのイメージが強かったわけですが、軍事的には、偵察飛行のために主に使われていました。アメリカにおいて特に、自国の戦闘員の死亡を強く避ける傾向と技術の進歩が相俟って21世紀に入ってその存在は急速に進歩しました。

現在では、昆虫並みの大きさのものに始まり高高度からミサイルを発射できるような大型のものまでが存在しています。衛星やそれを利用した通信の発達がこれらの兵器の大幅な進歩に寄与しています。

オバマ大統領は、アメリカの兵士を危険に晒すことのないドローンを使用した敵への攻撃を好んだと言われていますが、こうした攻撃のひとつひとつはどちらかと言えば小さな戦闘に過ぎないために、マスコミなどでの話題にも上りにくいというのが現実で、私たちが知る以上に実はこうした戦闘が遂行されているようです。

こうした新しい兵器の提出する倫理的な問題をゼミ生は指摘しています。まず第1に、こうした攻撃はピンポイントとなるのが普通で、これは戦闘というよりは限りなく暗殺に近いものとなります。こうしたことは許されるでしょうか。テロとの戦いということで「仕方ない」とされている面もあるのですが、倫理的な問題がそこにあることは確かです。

また第2に、こうしたドローンを遠隔操作で操縦する兵士の抱える問題もあります。信じられない話ですが、たとえば、アメリカのラスベガス郊外の基地から、アフガニスタンやイラク、シリアなどの上空を飛ぶ無人飛行機を彼らは操縦しているのです。そして、必要が生じれば、ターゲットに照準を合わせてミサイルを発射し殺害するということを行っています。軍服を着ていることは確かですが、オフィスのPCの前で仕事をするのが彼らの任務で、当然ながら、戦闘の実感は欠けるのが普通です。こうしたことがこうした兵士の精神にどのような影響を与えるかはまだ確かにはなっていません。映画「アイ・イン・ザ・スカイ」で描かれているような、子供を含む巻き添えを伴うような爆撃の後の彼らの精神がいかなる影響を受けるのか、今後大きな問題になるかもしれませんし、あるいは、こうした戦闘形態が普通になるにつれて問題ではならなくなるかもしれません。

ちなみに、2019年の現在では、こうしたドローンの世界最大の会社は中国の会社となっているようです。もちろん、軍事的な用途においてはそうはいかないのかもしれませんが。

ドローンとは逆に今でも兵器として使われている形跡のないものとして、「音響兵器」を取り上げたゼミ生がいました。
音響兵器とは、音波を利用して人間の耳やその奥の脳に影響を与えようとする兵器です。ただ、これによって人を殺すところまでいくのかどうかは今も疑問です。

これを使ってできることは、人や動物をある場所から遠ざけるという程度のことに過ぎません。実際に使われた例も多くはないようです。日本の捕鯨船がそれを妨害しようとするシー・シェパードの船に対して使った例が確認される程度です。

ただ、こういう兵器が実際に存在していることは事実で、そうである限り、それがどのように発展するかを見通すことはなかなか困難ですし、密かに使われている例がないとは言い切れません。実際、2017年8月には、キューバにおいて、アメリカ大使館の職員が体調不良を訴え、これが音響兵器の使用によるものではなかとの報道がなされています。この状況は前年から続いていたそうで、重度の聴覚障害の症状を20人以上が訴えているとのことです。その結果、アメリカ大使館では、緊急要員を除く大使館員やその家族を帰国させています。

これが本当に超音波を用いた音響兵器による被害であるのかどうかは確認できませんが、それでも、その可能性があるとすれば、音響兵器はすでに現実に使用されているものということができます。人を殺すに至らないこうした兵器をどのように位置づけたらいいか、私たちはよく考えてみなければならないのかもしれません。

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