2016年2月15日月曜日

【第32回】難民は夢を見るか②

この年、テーマ選びに関してゼミ生たちに指示したことは以下のようなことでした。

出来るだけマイナーな難民を探し出して、彼らについて詳しくリサーチしなさい。その難民たちについては自分が日本で一番詳しいと言えるような勉強をしなさい。

とはいえ、学生の関心は様々で、必ずしも私の想定の中に納まるとは限りません。私のこの年の想定は、現に今世界のどこかに存在する難民というものだったのですが、学生が取り組んだテーマはより多様でした。私は、自分の想定内に学生を囲い込むよりは、そこから仮にはみ出しても、出来るだけ学生のやろうとするテーマをやらせてみようと思っています。それで失敗することがないとは言えないのですが、思いがけないヒントをもらうようなことがあるのもまた事実なのです。

この年は、実は、柴田ゼミとしては最大の人数が所属した大所帯で、ゼミ生は3年生4年生を合計して20人いました。20人が様々な難民を取り上げたのですが、今回は、私の想定の外と言っていいテーマを取り上げた学生をご紹介致します。

「コロンビアの国内避難民」をテーマとしたゼミ生がいました。現在のシリアなどもそうだと思いますが、国境を越えて他国に逃れ「難民」となることは確かに悲惨ですが、その難民にすらなれない、場合によっては、より悲惨な状態に置き去りにされた状態にあるのが「国内避難民」です。

難民は国連を始めとする国際機関や避難して身を寄せた国の援助を、それがいかに不十分だとしても、受けることが可能なわけですが、国際機関や他国は国境を越えて、紛争のある国家の中に踏み込み、そこに留まっている避難民の援助をすることができません。
国民を保護する責任はどこまでも国家にあるのです。難民とは、その責任を果たさない国家を逃れて、一時的に自国以外の存在にその責任を委ねる存在なのです。国内避難民とは、だから、どこからも保護を受けない存在と言えます。難民よりも悲惨な場合があるとはそういうことです。

コロンビアは、麻薬組織などを含んだ反政府勢力が非常に強い勢力を長年に渡って保持してきた歴史があります。こうした反政府勢力が支配する地域において大量の避難民が発生していました。反政府勢力を抑え込む力のない政府ですから、避難民を十分に保護する力もなく、大量の国内避難民が、政府と反政府勢力との間の戦闘によって右往左往させられてきました。

この歴史をこのゼミ生は取り上げました。国家が弱体で、犯罪組織を抑え込めなくなり、それが大きく成長すると、国民にどのような被害が及ぶのかの実例と言えます。幸い、最近になって、こうした内戦は収束に向かっているようです。

難民そのものでなく、ふたりのゼミ生が難民を受け入れる受入国をテーマとしました。ひとりは「ウガンダ」を取り上げ、もうひとりが「ニュージーランド」を取り上げました。
現在のシリアの問題でもそうですが、必ずしも先進国とは言えない国家が大量の難民を受け入れている例が珍しくありません。たまたま紛争の起きた地域に存在するというだけでこうしたことが起きるわけですが、私たちは、受入国にももっと関心を払うべきなのかもしれません。

たとえば、シリアの場合ならば、ヨーロッパに逃れる難民が盛んに取り上げられていて、確かにそれは大きな問題なのですが、同じシリア難民がトルコには200万人、レバノンに100万人、ヨルダンに60万人、イラクに20万人いると言われています。私は、日本も多くの難民を受け入れるべきだという主張を簡単安易にしようとは思いませんが、難民を思やると同時に、それを受け入れる国家・国民のこともよく考えねばならないと思います。

ゼミ生が取り上げたウガンダは、自国が必ずしも豊かとは言えないわけですが、現在もコンゴの難民を受け入れています。また、ニュージーランドは、移民国家としての国の成り立ちが大きな要因とはなっていますが、先進国として、難民を受け入れるための制度が非常に整っています。

次回も引き続き、学生の取り上げたテーマをご紹介致します。

※このブログは毎月15日、30日に更新されます。




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