2017年4月1日土曜日

第59回【1989 時代は角を曲がるか⑭】

国際政治構造とは、主権国家からなる構造のことです。主要な要素は主権国家であって、この要素と要素の関係を司るものが国際法と外交で、国際法はまだまだ非常に未熟な段階にあり、そして、外交には変化がつき物です。とはいえ、これが「構造」であると私は確信しています。国際政治構造が変化しつつあるということは、こうしたあり方が変化しつつあるということになります。

これに対して、国際政治システムとは、以上のような構造の上で様々に変化する要素と要素の、つまり、主権国家と主権国家の関係のあり方ということになります。近代以降の国際システムを振り返ると、1815年ウィーン会議以降に明確な国際政治システムがヨーロッパにおいて誕生しました。これを古典外交と呼ぶことがあります。19世紀半ば過ぎからは植民地獲得競争を行う帝国主義のシステムが第1次世界大戦まで続きました。ヨーロッパ諸国やアメリカが現在のような国民国家として確立されたのは19世紀半ばのことでした。イギリス・フランスはいち早く国民国家を築き上げましたが、ドイツは1870年の普仏戦争の勝利によって、アメリカは1861年から65年までの南北戦争後に国民国家としての統一を実現します。日本もそれほど遅れてはいません。明治維新が1868年ことです。日本もこれらの諸国とまったく同じようにこの時期に主権国民国家をスタートさせたわけです。アジア・アフリカでこれに成功したのは日本だけでした。

1次大戦から第2次大戦までの国際政治システムは「新しい外交」などと呼ばれました。そこでは、アメリカとソ連が台頭しました。第2次大戦以降1989年(あるいは1991年ソ連の消滅)までが冷戦システムの時代です。冷戦はあくまでシステムであって構造では断じてないということを知ることが重要です。冷戦以降の国際政治も何らかのシステムと考えられます。冷戦ほどに明確な特色は存在せず、故に、うまい名前が付けられませんが。

このように考えればわかるように、近代以降の国際政治システムはすべて主権国家の存在を前提としています。システムは頻繁に変化しますが、構造はかなり磐石です。

現代の国際構造の原点は、近代ヨーロッパにおける主権国家(国民国家)構造の成立です。これは1415世紀の西ヨーロッパに始まる国際政治構造です。つまり、近代的な主権国民国家を要素とし、国民国家間に国際法と外交による関係が結ばれる構造のことです。

現在ではそれは神話ではないかと言われていますが、30年戦争後、1648年のウェストファリア会議(あるいは、条約)がその構造の始まりとされています。実際には、ウェストファリアよりもかなり前から徐々に主権国家が生まれつつあり、また、主権国家が西欧全体にわたって確立されるまでに数世紀の時間がかかっています。つまり、ウェストファリアとはシンボルなのであり、これが直接転換点を示すといったものではありません。

現代の国際政治構造は、西ヨーロッパに始まる主権国民国家構造が、数世紀を経て、世界全体に広がったものとして捉えることが適切であると私は考えます。

つまり、私たちは今、1516世紀頃に発し、西ヨーロッパにおいては19世紀後半にほぼ完成した「主権国民国家構造(ウェストファリア構造)」という国際構造の中で生きているのです。

ウェストファリア構造の特色とは何でしょうか。
  1 構造の主要な要素は「主権国民国家」である
  2 主要な要素間の関係を司るのが国際法であり、国際法は現状において発展途上である、つまり、要素間の関係次第で国際法は不断に形成される存在である
  3 主要な要素間の関係には外交が発生するが、これも原則としては国際法の下で行われることになる、ただし、関係が逆転して、外交の結果が法を形成する場合が珍しくない

ウェストファリア構造、すなわち、主権国家による構造は終焉しつつあるという有力な説が存在しています。主権国家は時代遅れで機能不全を起こしている、とか、主権国家以外に重要な主体(多国籍企業、NGO、国際組織など)が国際システムには登場しているとかいった主張がそれです。しかし、主権国家に代わる存在がどこにあるのでしょうか。主権国家に代わるものは現在まったく姿を現していないと私は思います。つまり、主権国家に代わって私たちの社会に秩序をもたらす存在はまったく実在していません。多国籍企業が、どこかのNGOが、あるいは、国際組織が、私たちの社会に国家に代わって秩序をもらすなどということが考えられるでしょうか。むしろ、それらの組織は主権国家が実現した秩序があって初めて存立しうる存在です。
ウェストファリア構造は終わりそうにないと考えるのが正しいと私は考えます。

※このブログは毎月15日、30日に更新されます。


http://www.kohyusha.co.jp/books/item/978-4-7709-0059-3.html 

0 件のコメント:

コメントを投稿