2017年4月15日土曜日

第60回【1989 時代は角を曲がるか⑮】

1989年に終わったと考えられるのは、冷戦という第2次世界大戦後の「システム」です。国際政治構造はまったく揺らいでいないと言えます。冷戦が終わった翌日(いつかは別にして)にも、主権国家は存在し、国益を追求し、主権国家間の関係は流動しています。その関係の様式が変化したに過ぎません。「システム」の変更はそれほど珍しい話ではありません。「システム」の変更を「時代が曲がり角を曲がった」と捉えるのは視野狭窄、あるいは、大げさであると言えます。国際政治の世界に本物の変化の兆しはまったくないと言っても過言ではないと私は考えます。

もちろん、システムの変化が重要でないわけではありません。新しいシステムへの過渡期には新しいシステムにおけるゲームのルールが模索されます。現在がその時期に当たっていることは議論のないものと思います。システムにおいてもっとも強力な存在となるのはこのルールの作成にもっとも影響を及ぼした存在です。この点からも日本は危ないと感じられます。ルールの作成から降りてしまっているような印象があります(TPPへの参加は、この点で、大きな修正となりました)。

現在の国際政治構造は、むしろ、完成された「ウェストファリア構造」への過渡期に過ぎないと私は考えています。つまり、「民主化された主権国民国家からなる多元的な国際政治構造」こそがこの構造の完成された姿なのであって、世界全体のまだ20%くらいしかこの条件を満たしていません(人口比なら10%かもしれません)。たとえば、中国が完全に民主化されるのはいつのことでしょうか。アフリカの全土を民主化された健全な主権国民国家が覆い尽くすようになるのはいつになるでしょうか。私は、これから500年をかけて、この完成された構造に向けて国際政治は変化していくことになると考えています。その間に、多くの「システム」が現れては消えることでしょう。しかし、それは実は本質的な変化ではなく、大きな過渡期に起きる表面上の変化に過ぎないのです。

500年後の完成されたウェストファリア構造に向けて私たちがやらなければならないことは、民主的で健全な主権国民国家を生み出すための援助を気長にやることに尽きます。これには時間がかかりますし、イラク戦争のような暴力は害あって利は少ないと思います。地道にnation buildingstate buildingを側面から援助する以外にありません。これは人の一生を超える事業で、人は自分の寿命よりも長い時間でものを考えることに慣れていませんから非常に難しい仕事になります。人類はこうした難しい作業に耐えうる存在でしょうか。(詳しくは『ウェストファリアは終わらない』でどうぞ!)

※このブログは毎月15日、30日に更新されます。


http://www.kohyusha.co.jp/books/item/978-4-7709-0059-3.html


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