2017年10月15日日曜日

第72回【彼らはなぜ核兵器を持つか⑫】

国連の安全保障理事会の常任理事国のすべての国が核兵器を保有しています。すでにアメリカ、ロシア、中国を取り上げましたが、フランスとイギリスはなぜ核兵器を保有しているのでしょうか。フランス、イギリスともに2人のゼミ生がこれをテーマとしました。

イギリスは、第2次大戦中のアメリカの核兵器開発に参加していました。しかし、イギリス自体が核兵器を保有することについては、戦後、アメリカの援助を得られませんでした。2人のゼミ生の一致した意見は、イギリスに核兵器を開発し保有させた最大の動機は「大国意識」であるということでした。

イギリスは、戦後、多くの植民地を失い、戦争による疲弊もかなりのものでした。戦後の苦しい財政状況の中で核兵器開発を行った背景には、それに対する強い意志が存在したことは間違いないのですが、その強い意志はどこに由来するのでしょうか。それこそが「大国の意地とプライド」だとゼミ生は論じます。失った広大な植民地に代わる何かを核兵器に見ていたのかもしれません。

イギリスは、核兵器をすべて潜水艦に載せて運用していますが、NATOにおけるアメリカの核兵器の存在を考えると、ソ連・ロシアへの核抑止において、どれほどの意味を持っているかと言えば、ほとんど影響力がないものと考えられます。アメリカの核の傘に対して、後ほど論じるフランスほどに不信感があるかと言えば、必ずしもそうではなく、そもそもイギリスの核兵器の運用自体がアメリカと不可分に結びついているのが実体です。

さらに、冷戦が終結し、ソ連が消滅しロシアが誕生しても、そして、ロシアがアメリカとともに核兵器の削減を行った場合にも、これらの外的事実の変化はイギリスの核保有に影響を及ぼしたようには見えません。ひとりのゼミ生は、ここから、イギリスの核兵器の保有の理由は、むしろ、国内要因によるのではないかと論じています。しかも、核戦略といったものも必ずしも明確でなく、ただ持っているだけに見えるとも論じています。

それでもなお、イギリスが核兵器を保有するのは、核兵器が「大国意識」を支えるものであり、自国を大国であると見せる手段であり、大国である(あるいは、あった)プライドを満たすためであると論じています。

なかなか厳しい見方であると思いますが、確かに、イギリスが核兵器を保有する積極的な理由は、対外関係からは見出せません。しかも、米ロの核バランスにイギリスの核戦力が影響を及ぼす可能性はまったくありません。そのように考えると、イギリスの核兵器は、実は、内向きなのだという説には説得力があります。イギリスの首相は、就任時に、自国が核攻撃を受けた場合の対処の選択肢を示され、軍にそれを命じるのが最初の仕事なのですが、それは、自国が大国であることを首相自らに刷り込むための儀式なのかもしれません。

大国意識と言えば、それが世界でももっとも強烈であるのがフランスかもしれません。フランスを取り上げた2人のゼミ生は、揃ってフランスの大国意識を指摘しています。

フランスが核兵器を独自に開発し獲得した過程においてもっとも影響が大きかったのは、アメリカに対する不信であったと思います。ドゴール大統領は、米英の核独占を批判し、核開発に進みますが、その背景には、フランスがソ連から核攻撃を受けた場合にアメリカがフランスのために報復をしてくれるとは信じられないという対米不信が存在しています。フランスは、1960年に最初の核実験を行いますが、66年にはNATOを脱退しています。

日本やNATO諸国は、アメリカの核の傘が機能すると信じて、あるいは、信じた振りをして核兵器の保有を思い止まっているのですが、フランスは、自国の大国意識と相俟って、アメリカの核の傘を信じることはしません。つまり、フランスは、アメリカの核の傘に入ることを潔しとしないのです。なぜならば、フランスは、自己意識としてアメリカと同じ大国なのであり、大国ならば、自国の政策の選択肢を最大限に広くするために核兵器を持つべきだからです。「偉大なるフランス」というドゴール主義は、単なるスローガンではなく、フランスのあらゆる政策を導く物差しなのです。


次回、南アフリカ、ミャンマー、イスラエルを取り上げたゼミ生の論文をご紹介します。

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