2018年7月14日土曜日

第90回【20世紀の悪魔・民族自決⑩】


ある民族が自決を果たすとすれば、その民族は、自決を果たす程度に一体感を持っていなければなりません。すなわち、自決を果たした瞬間から国民としての統合された意識を持たねばならないのです。これが簡単でないことは、60年代以降に独立を達成したアフリカの多くの諸国で経験済みです。これをテーマとして取り上げたゼミ生もいました。「国民意識と教育」というテーマです。

このゼミ生は、アフリカにおいて、国民統合のための教育がいかになされてきたか、あるいは、それがいかに不足したり、うまくいかなかったかを論じました。国民としての意識は自然に発生するものではなく、作り上げるものだという認識は日本人に欠けているものと思います。教育はその中心に存在する重要な事業なのです。

帝国の一部となっていたり、植民地とされていた民族が実際に独立を果たしていった過程をテーマとした学生が多くいました。

古いところでは、ばらばらの領邦国家の集まりに過ぎないドイツに、最有力の国家であるプロイセンがいかにして集団としての国民意識を植え付け、統一国家に導いたかを取り上げたゼミ生がいましたし、また、第1次大戦後に独立を果たしたチェコスロバキアの独立までのプロセスを取り上げたゼミ生もいました。

新しいところでは、第2次大戦中に日本が占領をしていた地域、具体的には、インドネシアとフィリピンを取り上げて、その自決、独立の過程を描いたゼミ生がいましたし、同様に、スリランカの独立の過程を取り上げたゼミ生もいました。また、インドの独立を女性の視点から描いたゼミ生もいました。一番新しいものとしては、ルワンダの独立の過程を取り上げたゼミ生がいました。

以上は、自決・独立をすでに果たした事例を取り上げた論文ですが、ゼミ生の中には、未だに自決・独立を果たせていない主体を取り上げたゼミ生もいます。パレスチナと台湾がそれです。どちらも大変に難しい問題であると思います。ある民族が自決を果たし、国民が自身の政府を持ち、国家を成立させるには様々な困難が存在するわけですが、パレスチナと台湾には、とりわけ大きな壁が立ちはだかっているように思います。

さらに、最近になって、分離・独立のホットな問題として取り上げられているカタルーニャを取り上げたゼミ生がいました。国際社会で「民族自決」が重要な基本的原則となっていることは間違いのないことですが、現在存在している国家から分離して自決・独立を果たすことは奨励されていません。ヨーロッパにおいては、成功例としてチェコとスロバキアの分離があります。また、大きな犠牲を伴ったものとしては、ユーゴスラビアが、コソボを含めて、7カ国に分裂した例があります。他にも、ベルギーに分裂の議論が昔からあり、また、スコットランドやウェールズにも独立の兆しが存在しています。

カタルーニャはその最新の例ですが、まだこの問題が現在のように現実の政治課題とはなっていない2012年にこのゼミ生はこの問題を取り上げました。

カタルーニャと似た例としてコルシカ島の独立運動を取り上げたゼミ生もいました。コルシカ島はフランス領ですが、やはり昔から独立の議論が存在してきました。こうした例を通じて分かることは、民族自決と国家の独立は、国際社会の原則とはいえ、非常に困難な事業であるということです。そもそも、文字通りに民族自決や独立が許されるとすれば、現在の国家システムは見る影もなく分裂したものとなることは間違いありません。どこで歯止めを掛けるかが大きな問題ですが、線を引くのは容易ではありません。スコットランドの独立、カタルーニャ、チェチェン、その例を挙げれば切りがないくらいです。ヨーロッパにおいてもそうなのですから、アフリカなどでは想像がつかないような事態になると思われます。一説によると、文字通りの民族自決を行えば、アフリカに1000を超える国家ができるだろうと言われています。以前の国連事務総長が言ったことばです。

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