2019年2月15日金曜日

第104回【ひとを殺す道具⑥】

ゼミ生たちは様々な兵器を論文に取り上げましたが、すでに国際条約で禁止された兵器を取り上げたゼミ生が複数いました。

化学兵器を取り上げたゼミ生、化学兵器の中の、特に、マスタードガスを取り上げたゼミ生、地雷を取り上げたゼミ生、クラスター爆弾を取り上げたゼミ生の論文がそれに当たります。

化学兵器は多様ですが、すでに1925年のジュネーブ協定によって、その使用は禁止されています。さらに、1997年にはより包括的な化学兵器禁止条約が締結されていて、化学兵器は、使用のみでなく、開発・生産・貯蔵も禁止されるようになっています。

問題は、それでもなお、その生産を続ける諸国が存在し、最近もシリアでその使用が疑われていますが、使用を躊躇わない国も確かに存在しているということです。そもそも、条約こそ存在しますが、それに加盟していない国も多数存在しており、そうした国には、道義的には、確かにこうした条約の制約が機能すると言えなくもないのですが、実際には、そうした国に対しては、条約の拘束力は存在しないのです。

また、オウム真理教のサリン事件に端的に表れているように、国家とは異なる主体、たとえば、テロ組織のようなものですが、こうした集団に対する、この条約の拘束力は絶無と言ってよいと思います。サリンのような化学兵器の場合は、サリンの製造にしか使用しない薬物を使用するので、その流通を規制することはそれほど困難ではありませんが、それでもなお、日本においてオウムは大規模な形でサリンを製造しました。ゼミ生が取り上げたマスタードガスの場合は、サリンと異なって、かなり汎用性のある一般的な原材料が用いられるために、それを完璧に取り締まることはかなり難しいと言えます。

テロ集団が化学兵器を獲得することは最悪の事態と言えるものですが、私たちの社会はそれを阻むことができるでしょうか。

地雷は、その残虐性はもちろんのこと、その数の多さや撤去の難しさなどから世界中で大きな問題となっています。
1999年に対人地雷全面禁止条約(オタワ条約)が成立しました。この条約は、NGOが主導し、国家を巻き込んで成立したものとして大きな話題になりました。しかし、他の兵器の禁止条約と同様に、この条約に参加していない国を規制することは当然できませんし、また、地雷の使用目的が近年大きく変化するのに伴って、地雷の使用を抑制することも難しくなってきているようです。

地雷の使用には、戦争時における軍事目的の使用と、ある土地から人を排除するために使用される非軍事目的の使用とがあります。近年、内戦の多発によって、非軍事目的の使用が多く見られるようになりました。ある一国の国境内部の内戦の中で用いられる非軍事目的の地雷の使用を他国が外から抑制することは極めて難しいことです。しかし、内戦が終了した後に与える影響、すなわち、無数の地雷を撤去し、元の土地にそれを戻すことを考えると、地雷の存在が内戦終了後にも大きな障害となることは言うまでもありません。地雷の影響は非常に長く続くものなのです。

一番新しく禁止条約が締結された兵器がクラスター爆弾です。どこかSF的な爆弾ですが、一つの親爆弾の中に子爆弾が数十から数百含まれていて、目標地点の上空で親爆弾が弾けることで子爆弾が広範囲に渡って降り注ぐという爆弾です。この爆弾の最大の問題は、非常に多くの不発弾が発生するということで、それら不発弾を子どもが拾い、それがその後爆発するというような被害が不断に起きているのです。

2008年にオスロにおいてクラスター爆弾禁止条約が締結されましたが、これまでの兵器の禁止条約が抱えているのと同様の問題、つまり、条約に参加していない国家を抑制はできないという問題がこの条約にもつきまとっています。

それでは、条約に参加しない国を抑制できない禁止条約は無意味でしょうか。ごく最近では、核兵器の禁止条約が2017年に結ばれましたが、核兵器を持った国々はどこもこの条約に参加していません。この条約は無意味でしょうか。確かに、無意味であると断言するような人もいます。


しかし、国際社会において、多数の国家が真に禁止すべきであると考える兵器の禁止条約が多数の国家の参加の下に成立するとすれば、それに参加しない国家にも道義的な制約が加わることは間違いのないことです。国家は冷酷に国益を追求する存在でもありますが、また、国際社会において名誉を欲する存在でもあります。そして、この「名誉欲」は案外大きな影響を国家に及ぼすのです。だから、非人道的な兵器の禁止条約は、それに参加しない諸国に対しても何らかの影響力を持っていると考えるのが正しい、と私は思います。ゼミ生の4分の1がこうした「禁止された兵器」を取り上げたのですが、彼らはそうしたことを無意識に感じているような気がしました。


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