2019年3月1日金曜日

第105回【ひとを殺す道具⑦】

「権力は銃口から生まれる」とは毛沢東の言ですが、その銃を国旗にあしらっている国があります。これに着目して小型武器の代表であるAK47をテーマとしたゼミ生が2人いました。

モザンビークの国旗にはAK47と鍬が描かれています。植民地だったモザンビークはまさにAK47を用いて戦い自らの独立を勝ち取り、それを国旗にも表現したわけですが、日本人にとってはその国旗はいかにも不穏な感じがします。

AK47、通称カラシニコフは、世界で最も多く実戦で使用されている小型武器です。もともとはソ連製で、この銃を設計したカラシニコフ氏の名前が通称として用いられ、あまりにも優秀な銃なので、多くの国でライセンス生産がなされ、また、無断でコピーされて世界中に、特に紛争地に行き渡りました。部品数が少なく、単純な設計なので、扱いが簡単で、故障が少なく、俗に調子が悪くなっても蹴飛ばせば動き出す武器なのです。元国連事務総長であるコフィ・アナンは、この銃を「事実上の大量破壊兵器」と呼びました。この銃の犠牲者はそれほどに大量なのです。

ゼミ生が指摘していますが、銃は確かに、ひとを殺す道具という側面を持っていますが、それはまた、戦って勝ち得た「自由と独立」を象徴するものでもあります。モザンビークの国旗はその武器の両面性を象徴するものだと言えます。

カラシニコフが貧者の武器であるとすると、攻撃ヘリコプターや劣化ウラン弾は、どちらかというと富者の兵器と言えるものです。

ヘリコプターは戦闘機に比較して脆弱な部分もありますが、機動性において極めて優れています。空中の同じ位置に止まることができ、即座に方向転換ができ、超低空を飛ぶことも可能です。ブラックホークがその典型ですが、現在では、攻撃に特化したヘリコプターが登場して戦場で多くの役割を果たしています。

そのヘリコプターからも発射される兵器のひとつですが、禁止されるべき兵器の候補にもあげられることのある劣化ウラン弾をテーマとしたゼミ生がいました。

劣化ウラン弾は、原子力発電や原子爆弾を作る過程で出る劣化ウランを材料とした兵器です。通常の兵器で使用される素材よりもはるかに比重が重い素材であるために(200㏄程度の容量で4㎏の重さがあるそうです)、兵器としての威力が大きくなります。また、それが戦車や戦艦・空母に命中して貫通するときに放射線を発します。それ故、劣化ウラン弾は事実上の核兵器であるとして非難し、その使用を規制すべきだと主張する人たちも存在します。

以上のように、学生たちは多様な「ひとを殺す道具」を取り上げ、それらの実態と、場合によっては、その意味について論文を仕上げました。

正直に言いまして、武器それ自体を取り上げることはそれほど難しいものではなかったと思いますが、それが使われる意味を考える段になると、格段に困難が増したように思います。武器は紛れもなく「ひとを殺す道具」であり、その側面では否定されるべきものであるわけですが、それが使用される文脈を考慮すると、それを単純に否定して済むものでないことは明らかです。


私も1年間この問題を考えて、ゼミ生たちと同じ問題に直面したように思います。次回から、私がゼミ生に話した1年間の総括の講義を再録致します。

※このブログは毎月15日、30日に更新されます。



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